『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
露天風呂に入ってる間はめっちゃいい雰囲気だったのに、何だろう……この距離感。
先に風呂から上がった俺をリビングへと追いやるくらいなら何となく理解の範疇なんだけど。
部屋から追い出され、挙句の果てにはアイスを買って来てとお使いまで言い渡された。
完全に俺を拒否ってんじゃん。
納得いかねぇ。
何だよっ、自分からあの部屋予約して、露天風呂まで自分から入って来たのに。
あ゛ぁぁぁあああ~~っ!
これじゃあ、蛇の生殺しじゃねぇかよっ!
今時、こんな昭和的なやり方、流行んねぇってのッ!!
「俺、甘すぎんだろっ……」
浴衣に羽織り姿で館内を歩く。
芽依好みのイチゴ味のアイスを購入して部屋へ戻る中、広告用のポスターを見て納得した。
今日夕食に食べた料理は『バレンタイン特別コースメニュー』だったということを。
もしかして……。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが……――…」
「はい、限定の特別プランのコースをご注文頂いております」
「そうだったんですね、ありがとうございました。とっても気持ちよかったです」
フロントでリラクゼーションアロマスパの内容を確認した。
俺だけのためではないだろうけど、彼女が事前に手を尽くしてくれていたことが何よりも嬉しい。
彼女が待つ部屋へと急いだ。
こんな風に尽くされたら、言葉にならない。
何もしてくれなくても、隣りにいてくれさえすればいいのに。
それだけで十分なのに。
「芽依っ」
「んッ……」
クローゼットに明日着て帰る服を準備している芽依をぎゅっと抱き締めた。