『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

突然何を出したかと思えば、婚姻届って……。

「いつも持ち歩いてるんですか?」
「ん」
「しかも、証人の欄に社長のサインまで」
「だから言ったでしょ。俺、本気だって」
「これ、副社長が書いたのではなくて?」
「俺の筆跡、知ってるよな?」
「………」

そうだ。
この字は響さんの字ではない。
しかも、この筆跡、社長のものだ。

でも、何だろう。
何かが違うような……。

「もう一つの証人の欄は、どなたが書くのですか?」
「勿論、芽依の父親だけど?それが、何か?」
「父が、すんなり書くとは思えません」
「ん、分かってる。だから、いつの日か、書いて貰えるようにいつも持ち歩いてる」
「………」

本当に子供っぽいのに策士でもあるんだから。

「書けばいいんですか?」
「うん!」
「でも、これを偽装工作に使いませんよね?」
「まさか!疑ってんの?」
「……いいえとは言えないです」
「フッ、信用無いんだな、俺」
「……すみません」
「いいよ、これまでの俺がそう思わせてるんだろうから」

ポンと頭を一撫でされた。

「これを出す時は、必ず証拠の写真残しとく。ちゃんと証人の欄に如月社長の名前が書いてあるってことを」
「……はい、お願いします」

そんなこと、絶対ありえないもの。

初めて書く婚姻届。
書き慣れているはずの自分の名前が他人のように思えてならない。
住所……これで合ってるよね?

色んな契約書を目にして来たけれど、別格の存在感に鼓動がトクトクと早まった。

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