『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「ちょっと寒いから、これ羽織ってて」
「えっ?」

エレベーターから下りると、突然彼がジャケットを脱ぎ、それを私の肩に掛けた。
そして、連れて行かれた場所は……。

都内でも有数の高級ホテルであるエトワール。
そのルーフトップにはラグジュアリーな空間が設けられている。

土曜日の夕方。
混雑しててもおかしくないのに、人気が無い。

「誰も来ないよ」
「………えっ?!」
「二人だけになりたくて、貸切った」

照れるように視線を逸らした彼。
ほんの少し耳が赤いのは気のせいだろうか?

「夕陽が綺麗ですね」
「ん、……芽依に見せたくて」

オフィスビルの谷間に沈む夕陽。
茜色に染まった空に薄っすらと三日月が浮かんでいる。

この夕焼けを見せるために貸し切ってくれただなんて。
贅沢すぎる。

「ありがとうございます、こんな素敵な景色を見せて下さって」
「……御礼を言うのはまだ早いよ」
「へ?」

私の手を掴んで、彼はルーフトップにあるカフェの奥へと進む。
カフェの一角にあるガーデンスペースには冬の景色には不釣り合いなほどたくさんの木々や花々に囲まれたアーチがある。
そして、その下に可愛らしいベンチが。

「ここに座って」

ちょっとロマンチックな雰囲気のガーデンチェアーに腰を下ろすと、彼はそんな私の目の前に跪いた。

「芽依」
「……はい」
「俺のこと、好き?」
「へ?」
「……好き?」

真剣な眼差しを向けて来る。
今日が最後だから、これくらいいいよね?

「…………はい」
「好きって言って」
「…………好きです」
「よかったぁ」

私の返答に安堵したのか、手の甲で口元を隠し、視線をふいっと逸らした。
そういう顔もするんですね。

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