『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
いつだって彼は堂々としている。
立っているだけで華があり、それでいて誰をも魅了する容姿を兼ね備えた選ばれし人間。
私のような影に生きる人間とは住む世界が違う。
ステージ上に立つ彼を眺めていると、目の前を父親が横切って行った。
「では、キサラギ製薬の社長様にも一言頂きましょう」
「創立百周年、おめでとうございます。……キサラギ製薬の如月です。仁科君から説明がありましたように、この度、当社と仁科製薬で新事業を立ち上げることになりました。当社の美容に関するノウハウと仁科製薬のバイオサイエンス事業の融合が、今後の薬品界の礎になれば嬉しい限りです」
会場内に拍手が沸き起こる。
大手製薬会社同士がタッグを組むなど、考えられない出来事だ。
響さんが私に隠していたのはこれだったんだ。
父親が関係しているから、あえて伏せていたというわけね。
気にせず、話してくれてもよかったのに。
隣りにいる常務秘書の瀬川さんと共に拍手をしていた、その時。
「それと、皆様にご報告したい事がもう一つあります。……芽依、おいで」
「ッ?!!!……(えっ、何?!)」
突然、マイクで呼び出された。
響さんが私を手招きするものだから、会場内の視線が一斉に向けられる。
「如月さん、……いってらっしゃい」
「……でも」
急に呼ばれたことにパニックを起こし、足が震え始めた。
「芽依、早く来なさいっ。皆様を待たせるんじゃない」
「っ……」
こういう時に父親面しないでよ。
ホテルのスタッフに誘導され、渋々ステージの端へと上がると。
待ってましたと言わんばかりに響さんに手を取られた。