『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
もう片方の手が首を支え、熱く唇が塞がれた。
「ちょっ………ッ……響さんっ」
彼の肩を押しやるみたいにして手を目一杯手を伸ばす。
けれど、そんな私の手は彼の手によって容易く阻まれてしまった。
「んっ……」
胸に軽い衝撃を受ける。
彼が私の手を掴んで引き寄せたから。
「やっと手に入った」
ボソッと呟き、肩に乗せられた彼の額。
首を支えていた手が腰に回され、体が抱き寄せられる。
「もう誰にも遠慮しなくていいのが嬉しくて、頭がおかしくなりそう」
「っ……、響さんっ、さっきのは何だったんですか?」
脳内が錯乱して、彼の言葉が追い付いて来ない。
「ちょっと座ろうか」
「………はい」
部屋の隅に置かれたソファーに並んで腰かける。
「あの……」
「ごめん、先に謝っとく」
「え?」
視線を合わせた彼は、ほんの少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「これを見て貰えば……」
そう言って差し出されたのは、彼のスマホ。
そこに映し出されたのは、昨夜書いたあの婚姻届だ。
それをスワイプして気付いた。
婚姻届の下にあった空白の証人欄に……父親の名前が記されている。
「これ、……どういう意味ですか?」
思わず、スマホと彼を何度も見返してしまった。
「さっき会場で説明してた新事業を取引したんだ、如月社長と」
「え……?」
「結婚の承諾を貰う代わりに、新事業を提携する契約を交わした」
「っ……」
「両家の親も承諾済で、芽依のサインも印あるから……さっき、区役所に提出して来た」
「ッ?!!!」
「だから、俺ら……もう夫婦なんだけど」
「…………」