『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
キスくらい、幾らでもしてやるわよっ!
ピンポーン。
「はい」
「副社長、お迎えに上がりました」
「上がって」
インターフォンのモニターに彼が映る。
まだ身支度が出来ていないようだ。
七月下旬。
今日は仁科製薬の納涼祭がある。
研究所がある東京郊外にある工場の施設を貸切って行われる。
お笑い芸人やものまねタレントのショーがあったり、社員によるのど自慢大会やビンゴ大会。
地場野菜の販売や地域の福祉作業施設の製品の販売ブースが豊富で。
勿論、屋台も沢山あり、夏の暑さを凌ぐための盛大なお祭りだ。
毎年このイベントは仁科製薬の社員とその家族、取引先や提携する企業、近隣の住民や仁科製薬の株主を招待しての一大イベントとなっている。
そのイベントのビンゴ大会の目玉商品として、新車一台、ペア海外旅行券、国内リゾートホテルのファミリー宿泊券など、豪華賞品を社長と副社長のポケットマネーで出しているのだ。
そのため、イベントの抽選時間に合わせて、副社長が代表して挨拶することになっている。
社員に気を遣わせないように、彼は十七時からのビンゴ大会に間に合うように会場入りする。
玄関ドアを開けると、そこに彼はいなかった。
仕方なくリビングへと歩を進める。
マンションの合鍵は預かっている。
けれど、非常時にしか使用しない。
例え秘書であっても、自宅はプライベートな空間だから、勝手に我が物顔で歩いたりできない。
「副社長?」
「あ、如月、こっち……」