『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
ロスのホテルで襲われかかった、あの日。
間一髪で如月に助けて貰ったのに、俺は彼女を襲おうとした。
薬の影響もあって、体が殆どいうことを利かず、更には長年想いを寄せてた相手ということもあって、理性との狭間を行ったり来たり。
結局は、彼女を払い避けるようにして何とか未遂で済んだけれど。
『好きな女は素面の時に抱きたいのに』
理性を繋ぎ留めるのに必死で、つい口から言ってはいけない言葉が漏れた。
まぁ、彼女はその後も俺の体調を気遣い、タオルで手首を縛ることで薬が切れるまでやり過ごしたけれど。
薬の影響だと流してくれたようで、その後あの日の出来事に触れることもせず。
きっと呆れているだろう。
女遊びが尽きない俺をどうしようもない奴だと思っているはず。
彼女との溝が更に深まった気がした。
納涼祭の会場へと向かう車内。
彼女はいつも通りに仕事をこなす。
普段とは違う浴衣を着ているのに、頭の中は仕事のことで埋め尽くされているようだ。
分かっている。
俺は『男』として、見られていないことくらい。
ニ十分ほど前に自宅で着付けて貰う際に、久しぶりに彼女に触れた。
正確には触れられたが正しいが、こんなにも近くにいるのに、一番遠い存在だ。
「副社長」
「……ん?」
「夏季休暇のご予定は?」
「……未定」
「ホテルや航空券をお取りするなら、そろそろお取りしておかないと間に合わなくなりますので」
「……ん」
大型連休になると、日頃憂さ晴らしに旅行に出かけ、欲のはけ口として女遊びをしていたけれど。
ロスの一件以来、気が失せたというか、正直行為自体が怖くなった。