『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
しっかり避妊はなさいましたか?
(七年後)
すっかり葉桜になった街路樹を車窓から眺め、車内に香る上品なフレグランスに煽られ、無意識にその香りの元へと視線が向きそうになるのを必死に堪えて。
外国製の高級セダン車の後部座席に優雅に足を組んで座る彼。
日本屈指の製薬会社、仁科製薬株式会社の副社長、仁科 響(二十八歳)。
国立の薬科大学の薬学部を首席で卒業し、幼い頃から英才教育を受けて育った彼は、正真正銘の御曹司。
さらりと左に流され軽く固められた髪、整えられた眉、アーモンド形をした双眸、スッと通った鼻梁は涼しげな印象を与え、キュッと引き締まった薄い唇、シャープな顎のライン、Yシャツの襟元の上に存在する色気のある喉仏。
極めつけは、身長百八十センチを超える長身で、細身のスーツをカチッと着こなす程よくついた筋肉が、姿勢のいいフォルムから伝わって来る。
眼福耳福鼻福。
全身から放たれるフェロモンが、周りの女性を綺麗にする媚薬のようで。
社内にとどまらず、取引先でも彼に夢中になる女性は多い。
しかも、薬剤師の資格を持つ彼は、家業である製薬会社の仕事もバリバリこなす極上ハイスぺ男だ。
そんな彼の秘書をしている私、如月 芽依(二十七歳)。
年齢=彼氏いない歴という、絶滅危惧種ような恋愛とは無縁の人生を送っている。
「副社長、レセプション後のホテルを予約しておきますか?」
「……ん、頼む」
「では、お取りしておきます」
彼は目を瞑ったまま、返事をした。
いつもと変わらぬ会話。
私は彼の全てをサポートする、秘書。
それ以上でも、それ以下でもない。