『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「芽依さん、もう一度よく考えてみて」
「………」
鮫島は如月の頭を軽く撫でて、俺に営業スマイルで会釈し、その場を後にした。
「知り合い?」
「知り合いというほどではないんですが、今日で二度目になります」
「……へぇ~」
鮫島……。
どこかで聞いたような名前。
見た目は俺より少し上に見えた。
大学で知り合ったとは思えない。
彼女のことは初めてあったあの日以来、事細かく把握している。
調査会社を使って、この七年ずっと彼女を見続けて来た。
女に執着しない俺が、唯一心を動かされた人物。
『如月 芽依』俺の初恋とも言える、俺の人生観を刺激する女性だ。
あっ!
思い出した。
鮫島 和樹(三十二歳)。
彼女が三か月ほど前に見合いした相手だ。
製薬会社と自動車会社という縁戚が成立するのか、気にはなったが。
彼女には『結婚』の意思が無く、もちろん期待を裏切らず、見合いはその場で断った……かに見えたのだが。
確か、対鮫島との見合いは、『アニメオタク』がコンセプトだったようで。
挨拶直後からトップギアでアニメ知識を延々と熱弁した。
調査会社からの動画でそれを観た。
単なる見合い目的の相手なら、絶対に引くような雰囲気だった。
まぁ、俺は爆笑してその動画を何度もリプレイして観たけれど。
彼女の熱弁に押し負かされ、鮫島はニ十分ほどで帰ったと報告書にあったが。
さっきの口ぶりだと、アニメオタクでも見合い話を進めたいという事か?
俺の隣りで少し困惑の表情を浮かべる彼女を一瞥し、一抹の不安が過る。