『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
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「副社長、もう宜しいのですか?」
「如月が最後までやりたいなら付き合うぞ」
「あ、……いえ、大丈夫です」
ビンゴ大会の会場にいると、延々とボールを引かされてしまい、帰るに帰れなくなりそうで。
それならいっそのこと、彼女を連れて別のブースを廻る方が楽しいんじゃないかと思えた。
「夕食まだだろ」
「……私は大丈夫ですが、副社長もまだですよね?」
「屋台が沢山あるから、社員を労いつつ売り上げに貢献して、腹でも満たすか」
「慰労行脚という事ですか?」
「まぁ、そんなとこだ」
「では、お供致します」
「宜しく頼む」
別にこれはデートなんかじゃない。
仕事の一環で社員の慰労目的で会場内を廻るだけ。
副社長と秘書という関係性が、誰が見ても納涼祭に参加しているだけ、と見えるはず。
後ろ指さされることなく、堂々と彼女を連れ回せると思った。
「たこ焼き、好きか?」
「あ、はい」
「すみません、一つ下さい」
「副社長っ!」
「暑い中、お疲れ様」
「おまけしときました!」
「おっ、悪いな。お釣りは、みんなでビールでも飲んで」
「えぇ~、すみませんっ!ご馳走様です!」
五百円のたこ焼きに対して、五千円を手渡した。
午前中から暑い中、頑張っている社員への気持ちだ。
「ん」
「副社長は?」
彼女にたこ焼きのパックを手渡す。
そして彼女の手を掴みその手で楊枝を掴ませて、たこ焼きに刺し、それを自分の口へと運んだ。
「っ……」
「後は食べていいぞ」
心なしか、彼女の頬が赤くなった気がした。
まっ、気のせいか。