『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
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「歩き疲れないか?」
「副社長、お疲れですか?どこか休める場所をお探ししますね」
「あ、いいよ」
「え、でも…」
すぐさま辺りをきょろきょろ見回し、休憩ブースに空きが無いかチェックし始めている彼女。
俺のことなんて放っておいたって構わないのに。
それよりも、履き慣れない下駄で歩きづらそうにしているのが気がかりだ。
恐らく、鼻緒が当たって痛いのだろう。
「そろそろ花火の時間になるし、リサーチしてくれた場所にでもどうだ?」
「はい?……私とですか?」
「嫌か?」
「あ、いえ……」
「じゃあ、案内して?」
「……はい」
二時間近く歩き回り、ブースの殆どに顔を出した。
屋台の食べ物は両手に収まりきらず、パック詰めされたものがビニール袋にびっしりと詰まっている。
飲み物は彼女が俺の分も持っていてくれて、俺らの関係を知らない人なら恋人同士に見えるんじゃないかとさえ思える。
*
「おぉ、ここなら人気も無いし、よく見えそうだな」
納涼祭の会場とは反対の位置にあたる研究所のテラス。
一般人は入れないが、俺らなら堂々といても問題ない。
腕時計を確認すると、まだ少し時間がある。
「ちょっと忘れ物したから、取りに行って来るな」
「え?それなら、私が行って来ます!」
「いや、いいよ。歩き疲れただろうから、休んでろ」
「ですが……」
「上司命令だ」
「……では、お言葉に甘えて」
「ん」
ポンポンと頭を優しく撫で、会場へとその場を後にした。