『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「あっ、副社長っ、……汚いのでっ」
「汚くないよ、じっとしてて」
テラスのベンチに座らせ、彼女の前に跪いた。
華奢な足の踵部分を支えるようにして持ち上げ、足先から下駄を抜き取り、鼻緒部分に絆創膏を貼る。
「お手数お掛けして申し訳ありません」
「気にしなくていいから」
「それと、先程のも……」
「あっ、あれは忘れて」
「え?」
彼女を守るためとはいえ、さすがにあれは無いよな。
まぁ、あの時は咄嗟で本能のままに動いたから、後悔はしてないけど。
一応、空手や柔道の有段者でもある。
だから、ぶちのめすことも出来なくはないけれど、奴も有段者かしれないし、取引先というのもあるから。
けれど彼女を守れるなら、どんなことだって厭わない。
彼女の言葉じゃないけれど、キスくらい幾らだってしてやる。
それが、男相手でも。
ヒュルルルルル~~ッ、ドンッ、パンッ、パチパチパチパチッ……。
夜空に大輪が咲いた。
雲一つない空に、色とりどりの花が咲き誇る。
彼女と肩を並べてベンチに腰掛け、夜空を見上げる。
俺が隣りにいるから、仕事モードが解除されないかもしれないけれど。
他人の目を気にせずにいられる今だけは、一人の男として隣りに座っててもいいよな?
お互いに無言で夜空を見上げる。
手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、見つめ合うこともない。
同じ方向に視線を向け、同じ花を眺めているだけ。
何てことない瞬間かもしれない。
けれど、俺にとっては贅沢すぎる時間のように感じられた。
このまま時が止まってくれればいいのに……。