『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

九月上旬。
冬期の季節性感冒に備え、新パッケージでの風邪薬や関連商品に切り替わる時期。
自社の製造工場は毎日目まぐるしく稼働している。

そんな中、六月に業務提携したファルン製薬との共同研究のバイオサイエンス事業において、新工場を立ち上げた。
それに伴う竣工式が来週に執り行われる。

一カ月半ほど前の納涼祭で口走った『彼女、俺のなんで』。
ロスの一件でもそうだが、彼女は本当に全くと言っていいほど気にしてないらしい。

言った俺の方が気にするって……。
俺、相当重症だ。

近づけば近づくほど打ちのめされる。
完全に眼中にないというか、上司としてしか見られてないというか。

好きになって貰いたいだなんて、贅沢は言わない。
せめて、男として意識して貰えたら……。

あぁ~っ、やっぱり無理だよな。
奴とキスしたし。
それも、結構ガッツリしたやつを。

自席のパソコンに向かい、頭を抱える。

「マジでムズいぃぃぃ~~っ」

絶好のチャンスを毎回ものに出来ず……。
もう諦めた方がいいんだろうか。

「はぁぁぁ~~~」

盛大な溜息が漏れ出す始末。
自分でも呆れるほどに手に負えん。

「仕事仕事っ!こういう時こそ、仕事に没頭だ!」

自分自身に言い聞かせるように新薬の分析結果に目を通し始めた。



「副社長、今宜しいでしょうか?」
「ん?どうした?」
「今週の金曜日なのですが、定時で上がらせて頂いても宜しいでしょうか?」
「別にそれは構わないけど」
「申し訳ありません。会議の途中で抜け出す形になるかと思いますが……」
「外せない用があるんだろ?」
「……そうですね」

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