『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
取引先の相手である病院の創立記念パーティーに招待された副社長。
そんな彼とレセプション会場へも同行している私は、常に存在感を消しながら彼の行動を先読みする。
「サンキュ」
副社長の好きな白ワインを手渡す。
けれど、彼の視線は少し離れたテーブルにいる女性へと送られていた。
今日のターゲットは、彼女らしい。
真っ白なスーツを嫌味なく着こなし、シャープな目元が知的な印象を与えている。
バスト八十八、ウエスト五十九、ヒップ八十七……こんなところかな。
副社長より少し年齢が上に見える彼女は、脳神経外科医・佐野 梢と書かれた名刺を差し出し、彼と名刺交換した。
その名刺を手渡された私は、手帳にそれを挟む。
この後、彼がどういう行動を取るのかも熟知している私は、静かに会場を後にした。
その足で向かった先は、パーティーが開かれているホテルのフロント。
「すみません。スイートかそれ同等の部屋を一部屋お願いしたいのですが……」
「お待ち下さい。……ジュニアスイートで宜しければ、空きがございますが」
「では、そちらでお願いします」
差し出された用紙に慣れた手付きで記入する。
勿論、記入している名前や住所は副社長のものだ。
手続きを終え、カードキーを受け取り、一旦社用車へと戻る。
コンコンと軽く窓ガラスをノックし、運転手の井上 満(四十二歳)に合図を送った。