『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

新工場の見学を終え、社に戻るために駐車場へと向かっている途中。

「あのっ、副社長」
「ん?」
「電話が入ったので、少し席を外します。先に駐車場へ」
「ん、分かった。ゆっくりでいいぞ」

彼女は慌てた様子で、駐車場脇の駐輪場へと駆けて行った。

それにしても、最近頻繁に電話がかかってるよな。
前は勤務中にはプライベートの電話を一切取らなかったのに。
最近は電話相手が誰なのか言わずに席を外す。

……嫌な予感がする。

仕事とプライベートをしっかり分けている彼女が、あんなにも慌てた顔をするなんて。
もしかして、鮫島みたいな見合い相手から、しつこく電話がかかって来るとか?

居ても立っても居られず、彼女の後を追っていた。

「だからっ、私はお兄ちゃんの身代わりじゃないんだからっ!」

いつもの冷静沈着な彼女からは想像も出来ないほど、物凄い剣幕でまくし立てている。

「何度言ったら分かってくれるの?お兄ちゃんはお兄ちゃん、私は私なんだってばっ!」

『お兄ちゃん』というワードから読み解くと、電話相手は身内だろう。

「いい加減にしてっ!種種種種っ、聞き飽きたからっ!私はお兄ちゃんの身代わりに、キサラギの跡継ぎを産むための子づくりマシーンじゃないのっ!好きでもない男性と関係を持つのも嫌だし、ましてや子どもだけつくってくれればいいとか、意味わかんないんだけどっ!もう電話かけて来ないでっ!!」

通話を切った如月が、大きな溜息を吐きながら踵を返した。

「今の話、どういうこと?」
「ッ?!……副社長、いつからそこに?」

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