『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
ありえないワードを耳にした。
それも、彼女の口から出て来るとは思えないような言葉を。
「種だとか、子づくりって、……どういう意味?」
「副社長には関係ありません。お待たせして申し訳ありません。会議の時間に間に合わなくなります。社に戻りましょう」
「……如月、俺の質問に答えろ」
「っ……」
何事も無かったように車へと戻ろうとする彼女の腕を掴んだ。
「俺のことは何でも知ってるのに、お前のことは何も教えてくれないんだな」
「っ……、それは、秘書として当然のことで」
「誰も、してくれとは頼んでないだろ」
「っ………」
「それに、俺はお前の上司だ。困ってることがあるなら、幾らだって助けてやる」
「……本当に大丈夫ですから」
「この顔が、大丈夫に見えねぇんだよっ」
「っんッ……」
視線を合わせようとせず、話を打ち切ろうとする彼女の顎を掴んで持ち上げた。
「本当のことを言うまで、ここから一歩も動かないぞ。……それでもいいなら好きにしろ」
彼女の目に訴えるように言い放ち、俺は駐輪場の衝立に背中を預けた。
無視出来るもんなら無視してみろ。
俺がいなきゃ、会議にならないんだから。
ほら、早いとこ言わねぇと、会議に支障来すぞ。
腕組をして鋭い視線を向けると、両手で顔を覆い、“ん~んっ”と地団駄を踏むように身悶えし始めた。
そして、およそ一分。
彼女はゆっくりと顔を上げ、俺に視線を向けた。