『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

副社長から訳の分からぬ提案を突き付けられた翌朝。
いつもより三十分ほど早くに自宅を出た。

昨日は脳内が混乱して、事務作業の効率が低下してしまい、雑務を残してしまった。
それを処理するために早めに出社しようとエントランスを抜けた、その時。

「おはよう」
「っ?!……副社長っ、何故、ここにいらっしゃるんですか?」

マンションのエントランス脇に車が止まっていて、その車に彼が凭れていた。

「如月を迎えに来たに決まってるだろ」
「何故ですか?」

思考が追い付かない。
朝が苦手というわけではないが、基本九時に出社する彼。
井上さん(運転手)の運転する社用車で出社している彼が、何故か、愛車の高級外国車のSUVで迎えに来た……らしい。

「もう忘れたのか?」
「はい?」
「俺から逃げられると思うなよ?」
「っ……」

そんな話をしたんだった、……昨日。
でもあれは、売り言葉に買い言葉みたいな流れで、ついつい口が滑ったという認識でしかなかったのに。

「本気なんですか?」
「当たり前だろ、冗談で言えるか」
「っ……、いつからここに?電話かメールで呼び出して下されば……」
「朝の身支度を急かしたりするのは、スマートじゃないだろ」
「っ……」

女性に手練れている彼にとったら、落とすのなんて朝飯前なのだろう。
極甘フェイスで朝からアプローチされたら、不本意にも一瞬キュッと胸が高鳴ってしまったじゃない。

「どうぞ」
「っ……」

彼が助手席のドアを開け、中へと目配せして来る。

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