『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

マンションの目の前に車をずっと横付けしていたから、管理人さんが出て来てしまい、迷惑を掛けないように仕方なく車に乗り込んだ。

「申し訳ありません」
「何が?」
「運転させてしまって……」
「俺の車だし、俺が如月を乗せたくて迎えに来たんだから、気にするな」
「ですが……、秘書が助手席に乗っていては問題になりますし、副社長の威厳が保たれません」
「別に誰がどう思おうと関係ないだろ。俺、副社長だし」
「っ……」

副社長相手に諭すだなんて、所詮無理な話。
それでも、彼のことを陰口叩くような人がいるんじゃないかと心配になる。

「副社長」
「ん?」
「今日だけにして下さい。明日からは今まで通りに……」
「無理」
「っ……、ですが、私も無理です」
「何が無理?」
「……井上さんの仕事を失くしてしまうのは……」
「朝と帰りだけ」
「え?」
「日中の移動は井上を使うから、心配するな。朝と帰りを減らしたからといって、減給したりしないから」

ポンポンと優しく頭を撫でられた。
ハンドルを握る彼の横顔が、いつになく穏やかで。
笑うと出来るえくぼが、イケメンフェイスにキュートさをプラスさせている。

信号で停車し、顔がゆっくりと助手席へと向けられる。

「今週の日曜日、丸々一日開けといて」
「……ゴルフ接待ですか?」
「いや」
「では?」
「デート」
「はい?」
「如月 芽依さん、俺とデートしてくれませんか?」
「………」

極甘フェイスが僅かに傾く。
“ね?いいでしょ?”と言わんばかりに。

何をどうしたらこういう展開になるの……?

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