『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

求人募集は『秘書課』という括り。
実際には、常務や部長クラスの秘書も必要だったから、採用した人も含めて秘書課で誰を誰に付けるのかを決めることになっていた。
けれど、そんなチャンス滅多にないから、当然俺は彼女を自分付きにした。

当たり前のように新人を副社長の秘書になんて無理な話で。
だけど、『キサラギ製薬の令嬢』だと明かした上で、スパイかどうかを見極めると密かに秘書課の部長と水面下で取引した。

全責任は俺が取る……という事で。
勿論、キサラギ製薬の令嬢だということも伏せて貰い、今に至る。

「だから、見合いのこともご存知だったんですね」
「ん」
「頭のイカれた女だと思われましたよね」
「いや」
「え?」
「可愛いなぁと思ったよ。……見合いにはありえない言動だけど、それが返って俺の心に響いたというか。とにかく一目で惚れたのは間違いない」
「っ……」
「だから、俺、マジで本気だから」

踏切待ちで助手席に視線を向ける。
僅かに頬を染める彼女が、どうしようもなく可愛く見えて、ついつい手を伸ばしてしまう。

ふんわりと緩く巻かれた髪の束に指先を滑らせ、優しく触れる。

「如月の家から出たいなら、俺の所に来ればいい。俺はいつだって歓迎するから」
「っ……」
「それに、女遊びはもうしない。芽依が俺だけ見てくれるなら、他には何も要らないし」
「っっ……」
「だから、俺の手を取れ。そしたら、生涯甘やかしてやる」
「っっっっ~~っ」

キザな台詞だってのは承知の上。
だけど、ストレートにガン攻めしないと後悔しそうで。

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