『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
夕方の渋滞に巻き込まれないように都心に戻って来た。
「あのっ……」
「ん?」
「簡単なパスタとかでよければ……」
「??」
「夕食、……作りましょうか?」
「え?」
「お口に合うかは分かりませんけど……」
「食べるっ!!」
「フフッ、では、私の家に」
ダメもとで声を掛けてみた。
今日一日一緒に過ごした御礼?みたいなもの。
一昨日の御礼というのもある。
彼の家で、軽い食事を作ったことは何度もあるけれど、自宅に招いたことは一度もない。
だから、緊張はする。
彼の家に比べたら、質素で変哲もない家だけれど。
一日彼と過ごして分かったことがある。
彼は『御曹司』っぽくない。
勿論、着ている服とか持ち物とか車とか、高級品なものだけれど。
普通の人と目線を合わせているのが見て取れた。
私が知る『御曹司』の人々とは纏う雰囲気が違う。
だから、彼の周りに人が集まるのかもしれない。
自宅マンションの駐車場に到着すると、彼は“ちょっと待ってて”といって、管理室へと駆けて行った。
数分して戻って来た彼。
何やら用紙を手にしている。
「空いてる駐車場の契約して来た」
「はい?」
「無断で止めるのも気が引けるし、仁科の顔に泥を塗るのも出来ないし」
「……さすがです」
「三十八番って所はどこ?」
「三十八?」
駐車場内をグルっと走らせ、番号が書かれている場所を探す。
「あ、あそこです」
「おっ、端だ、ラッキー」
中通路の端に“三十八”と書かれた番号を見つけ、そこに彼は駐車した。