『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「猫の額ほどの家ですけど……」
「お邪魔します」
置かれたスリッパを履き、室内へと進む。
明るい色目のスッキリとした雰囲気の部屋で、所々に観葉植物が飾られている。
「なんか、意外だな」
「え?……変ですか?」
「いや、もっと女の子っぽい色調かと思ってた」
「そういうテイストも嫌いじゃないですけど、もう若くないので……」
無意識に部屋を見回す。
女遊びをし尽くして来た俺でも、女性の部屋に入るのは初めてに近い。
一定の距離を保って遊んで来た俺にとって、やっぱり芽依は特別な存在だ。
「テレビとか観ます?好きに寛いでて下さい」
「ん~」
コートを脱ぎ、それをソファーに置く。
彼女もコートを脱ぎ、リモコンでテレビの電源を入れると、キッチンへと向かって行った。
どこからともなく花の甘い香りがする。
いつも彼女が付けている優しいフレグランスの香りだ。
ソファーに腰を下ろし、カウンター越しに彼女を盗み見る。
軽快な包丁の音が耳に聞こえ、胸がじわりと温められる。
こういう時間が訪れるとはな。
夢にまでみた幸せな時間を満喫するように、無意識に足が彼女の元へと向かっていた。
「んっ……、ふっ……響さん、危ないですっ」
「少しだけ」
「っ……」
彼女を背後から抱き締めた。
誰にも邪魔されることなく、俺の腕を払い除けるわけでもなく。
腕の中に収まる彼女のぬくもりを全身で感じ取って……。
「付き合ってる男はいないみたいだけど、好きなやつもいないのか?」
「好きな……男性ですか?」
「ん」