『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

腕の拘束を緩めて、両手を調理台につく。
勿論、彼女の体を両腕の中に閉じ込める状態で。

「好きな人はいます」
「っ?!……いるの?」
「はい」
「いつから?」
「……十年ほど前から」
「それ、同じ人物?」
「………はい」
「っ……、マジか~ッ」

衝撃的発言を耳にしてしまい、正直ショックが大きすぎる。
いるかもしれないとは思っていたけれど。
まさか、十年も同じ人物を想い続けてるだなんて、予想もしてなかった。

「そいつは芽依が好きなを知ってるのか?」
「いえ、……気持ちを伝えたこともないので」
「じゃあ、片想いってことだよな」

俺と知り合う前からずっと心に想いを寄せていたやつがいるなんて。
マジでショックが大きすぎる。

まぁだからといって、諦めるだなんて今さら出来ない。
俺だってずっと見続けて、想いを募らせて来た。

「そいつのどういう所が好きなの?」
「どういう……そうですね。何気ない優しさとか、誰にでも分け隔てなく接するところとか」
「でも、それ普通じゃないか?男なら、それくらいの気遣いできて当然というか」
「そうなんですかね?……フフッ、そうかもしれません」

パスタ鍋の湯が沸騰し、冷凍庫から取り出した麺を解しながら入れる芽依。
料理し慣れているのか、タイマーをセットすることなく掻き混ぜている。

「パスタの他は、サラダとスープくらいでいいですか?」
「ん」
「あ、昨日の残り物でよければ、少しありますけど」
「任せる」

手際よく茹でた麺を湯切りし、フライパンで作ったソースに麺を投入した。

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