『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
キッチン内を忙しそうに行ったり来たりする芽依。
仕事でもそうだけど、本当に隙が無い。
調理台の端に凭れる感じで彼女をじっと見つめていると。
「向こうで座って待ってて下さい」
「やだ」
「は?」
「ずっと見てたい」
「っ……、ずっと見られていると恥ずかしくて……」
「それって、俺を意識してるってことでしょ」
「……副、……響さんでなくても、ずっと見られたら緊張します」
「あっそ」
彼女に触れたい。
抱き締めたい。
好きな男がいると知ってしまった以上、遠慮してたらもっと後悔しそうで。
相手の男がまだ彼女の気持ちに気付いてないなら、今のうちに俺に惚れさせてやる。
「あ、そうだ」
コートのポケットにしまっておいたものを取りに行く。
カットしたアボカドと茹でた海老を和える彼女の背後に立って。
「んっ?!……な、何、してるんですか?」
「誕生日プレゼント」
「へ?」
「明日、誕生日だろ」
「っ……、ご存知だったんですか?」
「勿論」
彼女の首にネックレスを着けた。
「こんな高価なもの頂けません」
「俺の気持ちだから」
「ですが……」
「じゃあ、初めてのデートの記念ってことで」
「っ……」
「返品できないから、要らないなら捨てればいい」
「捨てるだなんて……できませんよ」
「じゃあ、遠慮なく貰っといて」
「……すみません」
「謝らなくていいから」
「……ありがとうございます」
「うん」
この八年あまり。
ずっと何かをプレゼントしたかった。
何かに理由をつけて贈ったとしても、彼女なら絶対に何らかの理由をつけて返して来ただろう。
だからこそ、機会が巡って来るのを待っていたんだ。