『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「んっ……ッ……」
手触りのいい滑らかな肌、手に余るほどの双房、柔らかな唇。
指が這うその先も、男心を擽るような甘い香りを纏い、本能で導かれるかのように更なる先へと誘われているようで。
そんな余韻を楽しむ前にYシャツのボタンが外されてゆく。
スーッとした空気が肌に触れたと同時に、熱の籠った指先が辿り着く。
「いい体ね」
甘ったるく色香を纏う女の声が、煽るように向けられる。
はだけたYシャツの襟元から忍ばせた指先が肩口から背中へと這い伝い、味わうかのように蹂躙する。
こいつの名前は何だったか。
覚えてない。
脳神経外科医と書かれた名刺を一瞬視界に捉えただけ。
『医師』という括りの女だという認識しか、俺には無い。
そもそも、記憶する必要もない。
女は一度しか抱かない主義。
何度も同じ女を抱くほど、女に不自由してないし、執着する必要もない。
好きでもない女を性欲のために抱くだけ、ただそれだけ。
女なんて、口説かなくても寄って来る。
ステータスやこの容姿のお陰で。
仲のいい友人には『いつか痛い目をみる』と言われるが、覚悟のうえ。
だって、俺にはこれ以外に『自由』がない。
生まれる前から将来の軌道が予め用意されていて、その敷かれたレールの上をただひたすら進む以外に道がない。
俺に兄弟がいたら、また違う未来があったのかもしれないが、現実はそんな生易しいもんじゃない。
今でこそ珍しくもない『不妊治療』を三十年近く前にし、やっと授かった子供だ。
それも、日本屈指と言われる大手製薬会社の跡取りとして。
そして、産後の状態が悪かった母親は、俺が三歳の時に亡くなった。
だから、残された父親をこれ以上悲しませるわけにはいかないんだ。