『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
煽情的な視線を向ける女に優しくキスを落とす。
男に手慣れているようで、軽くキスをしたくらいじゃ物足りないらしい。
俺の首に手を回し、執拗にキスを催促して来た。
キス自体は嫌いじゃない。
けれど、こうもあからさまに仕掛けられると、男なんて萎える生き物。
仕方なく貪るようにキスしてやる。
あの会場でこいつ以外に、相手に出来そうな女がいなかっただけ。
別に求められるのが苦手というわけじゃない。
好きな女からなら、幾らだって求められたい。
むしろ、四六時中俺のことで頭の中を埋め尽くして欲しいとさえ思えるほど、独占欲は高めだ。
けれど、人生そんなに甘くない。
好きな女が俺のことを好きになる確率だなんて皆無に等しいだろう。
「シャワー浴びて来い」
「えぇ~っ、いいじゃないこのままで」
「……いいから浴びて来い」
「っ……、仕方ないわね」
女は上機嫌でバスルームへと消えた。
「はぁ……、何やってんだか」
ワックスで固められた髪を掻き乱す。
ベッドに背中から倒れ込み、天井を呆然と眺める。
思い浮かぶのは一人の女性。
大学三年の時に一目ぼれした女性だ。
見た目は清楚で、愛らしい笑顔と色気も兼ね備えていて。
何より、俺が今まで考えもしなかった世界観を持っている個性的な女性。
同じ境遇だと思われる彼女だが、生き様は俺とは真逆で。
その独特の雰囲気に完全にノックアウトされた。
そして、好きでもない女を抱く時、俺は常に彼女のことを想いながら抱いている。
この想いが、彼女に届くのなら……。