『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



食事中に話すべきではなかった。
完全に彼の気分を害してしまった私は、食器を片付け、残ったものを冷蔵庫へと入れる。

彼は缶ビール四本目に突入し、完全に落ち込んだように見える。

あんな風な彼を見たことが無い。
いつだって自信に満ち溢れていて、太陽のように明るい性格なのに。

「あのっ……片付け終わりました」
「……ん」
「では、私は帰りますね」

ソファーに掛けておいたコートを手に取り、鞄を持ち上げた、その時。
彼が私の腕を掴んだ。

「………響……さん?」
「一%も望み無い?」
「へ?」
「……顔が嫌いと言われても、芽依のこと……諦められない」
「っ……」
「本当に遊びは卒業したし、信用できないならスマホだろうが手帳だろうが、家中確認したっていいから」
「……あ、いや……そういうことでは…」
「全身全霊で尽くしても……ダメ?」
「っ………」

シュンと肩を落とし、潤んだ瞳で見上げられても……。
そんな可愛い顔、反則です。
子犬のようにクーンと項垂れている表情が何とも言えないほどきゅんとする。

もうどうしたらいいのだろう。
やっぱりこんな風にプライベートで会うべきじゃなかったんだ。
こうして近づいてしまえば、末路が近づくことは分かり切っていたんだから。

「副社長の秘書を辞めたくはありません」
「それは知ってるし、辞めさせないから安心しろ」
「結婚云々ではなく、私と付き合うとして……他の女性と同じように」
「ん?……いや、芽依は特別だから、同じにはするつもりないけど」
「へ?」
「ん??」
「あ、いや、その……付き合ってたら、普通にその、何ていうか……そういう関係にもなりますよね?」
「え?……そういう?……あ、あぁ……うん、まぁ、そう……だな」

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