『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

拒絶してもダメ。
無視してもダメ。
さらりとかわそうだなんて甘い考えなのは分かっている。

恋人としても結婚相手としても、彼以上の人なんて現れないのは分かっている。
分かっているだけに、どうしても彼の気持ちに応えるわけにはいかない。
顔が嫌いだと彼は勘違いしている。
本当は、好きすぎて直視できない……という理由なんだけど。

彼の傍にずっといたいから。


彼が諦めるための提案というよりは、彼の傍にい続けられるための提案を考えた。
秘書として傍にい続けるためにも、嫌われずに接して貰うためにも。

けれど、常識的な判断での契約書を作ったとしても意味がない。
だって、お互いの家はライバル会社だ。

恋人関係でいることですら、憚れるような間柄だ。
だからこそ、その問題点は最大の難関。



「出来ました。ご確認お願いします」
「……ん」

プリンター機で印刷した契約書を彼に手渡す。
真剣な表情でそれに目を通す彼を凝視していると、彼がフッと柔らかい表情を浮かべた。

「いいだろう、この条件を呑む。……ここにサインすればいいのか?」
「あっ、……はい」

本当にいいの?
まぁ、私にとっても大きな賭けなんだけど、これらを全部呑むってことだよ?

「副社長?……全部目を通されましたか?」
「ん」
「本当ですか?」
「あぁ」

彼はその場で契約書にサインした。
……噓でしょ?

契約書には……。
一、両家の親に必ず結婚の許可を得る。
二、入籍するまで肉体関係は結ばない。
三、結婚が正式に決定するまでは、社内外には秘密にする。
四、入籍までの間、共同生活をし、同じ寝室で就寝する。
五、結婚後も本人が望まない限り、退職できない。
六、如月家から嫡子を養子にする話を持ち掛けられても、必ず断る。
七、如月 芽依以外の女性とは、今後一切関係を持たない。

日付は勿論のこと、この他にも詳細に関しての事項がびっしりと記されている。

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