『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
拒絶してもダメ。
無視してもダメ。
さらりとかわそうだなんて甘い考えなのは分かっている。
恋人としても結婚相手としても、彼以上の人なんて現れないのは分かっている。
分かっているだけに、どうしても彼の気持ちに応えるわけにはいかない。
顔が嫌いだと彼は勘違いしている。
本当は、好きすぎて直視できない……という理由なんだけど。
彼の傍にずっといたいから。
彼が諦めるための提案というよりは、彼の傍にい続けられるための提案を考えた。
秘書として傍にい続けるためにも、嫌われずに接して貰うためにも。
けれど、常識的な判断での契約書を作ったとしても意味がない。
だって、お互いの家はライバル会社だ。
恋人関係でいることですら、憚れるような間柄だ。
だからこそ、その問題点は最大の難関。
*
「出来ました。ご確認お願いします」
「……ん」
プリンター機で印刷した契約書を彼に手渡す。
真剣な表情でそれに目を通す彼を凝視していると、彼がフッと柔らかい表情を浮かべた。
「いいだろう、この条件を呑む。……ここにサインすればいいのか?」
「あっ、……はい」
本当にいいの?
まぁ、私にとっても大きな賭けなんだけど、これらを全部呑むってことだよ?
「副社長?……全部目を通されましたか?」
「ん」
「本当ですか?」
「あぁ」
彼はその場で契約書にサインした。
……噓でしょ?
契約書には……。
一、両家の親に必ず結婚の許可を得る。
二、入籍するまで肉体関係は結ばない。
三、結婚が正式に決定するまでは、社内外には秘密にする。
四、入籍までの間、共同生活をし、同じ寝室で就寝する。
五、結婚後も本人が望まない限り、退職できない。
六、如月家から嫡子を養子にする話を持ち掛けられても、必ず断る。
七、如月 芽依以外の女性とは、今後一切関係を持たない。
日付は勿論のこと、この他にも詳細に関しての事項がびっしりと記されている。