『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「俺、少し仕事してから休むから、先に寝てていいよ」
「……はい。お先に失礼します」
「芽依」
「はい」
「ここは職場じゃない」
「あ、…はい。お休みなさい」
「おやすみ」

急ぎの仕事があるわけじゃない。
しかも、俺の仕事の内容を熟知している彼女なら、それくら分かっているはず。
それでも、気持ちを静めるためのクールダウンタイムが必要だ。

書斎でパソコンに向かい、バイオサイエンスのデータ管理をチェックしながら、今後の予定を組み立てる。



パソコンの時計が視界に入る。
二十三時三十一分。
彼女はもう寝ただろうか?

書斎から空いたカップを手にしてキッチンへと。
シンクにカップを置いた、次の瞬間、視界にいつもと違うものを捉えた。

彼女が朝食の準備を少ししてくれたらしい。
スロークッカーの電源ランプが点灯している。
何を仕込んでいるのかは分からないが、こういうさりげない優しさがグッと胸を刺激する。

静かに寝室に入ると、ベッドの端に丸まるようにして寝ている芽依。
キングサイズのベッドなのだから、もっと堂々と寝てたって問題ないのに。
それが彼女らしくて、くすっと微笑ましく思えた。

そっと彼女の頭を撫でる。

「おやすみ」

ベッドの反対側に回り、そっと潜り込む。
ひんやりしてる寝具なのに、心なしかいつもより暖かく感じた。

薄暗い寝室の天井を見つめる。

数時間前に急展開し今に至るけれど、これって夢じゃないよな?
八年あまりずっと想い続けて来た彼女が、今俺の隣りで寝ているだなんて……。

手の甲を額に当て、深呼吸。
寝て起きたら……リセットされてませんように。

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