『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「俺、少し仕事してから休むから、先に寝てていいよ」
「……はい。お先に失礼します」
「芽依」
「はい」
「ここは職場じゃない」
「あ、…はい。お休みなさい」
「おやすみ」
急ぎの仕事があるわけじゃない。
しかも、俺の仕事の内容を熟知している彼女なら、それくら分かっているはず。
それでも、気持ちを静めるためのクールダウンタイムが必要だ。
書斎でパソコンに向かい、バイオサイエンスのデータ管理をチェックしながら、今後の予定を組み立てる。
*
パソコンの時計が視界に入る。
二十三時三十一分。
彼女はもう寝ただろうか?
書斎から空いたカップを手にしてキッチンへと。
シンクにカップを置いた、次の瞬間、視界にいつもと違うものを捉えた。
彼女が朝食の準備を少ししてくれたらしい。
スロークッカーの電源ランプが点灯している。
何を仕込んでいるのかは分からないが、こういうさりげない優しさがグッと胸を刺激する。
静かに寝室に入ると、ベッドの端に丸まるようにして寝ている芽依。
キングサイズのベッドなのだから、もっと堂々と寝てたって問題ないのに。
それが彼女らしくて、くすっと微笑ましく思えた。
そっと彼女の頭を撫でる。
「おやすみ」
ベッドの反対側に回り、そっと潜り込む。
ひんやりしてる寝具なのに、心なしかいつもより暖かく感じた。
薄暗い寝室の天井を見つめる。
数時間前に急展開し今に至るけれど、これって夢じゃないよな?
八年あまりずっと想い続けて来た彼女が、今俺の隣りで寝ているだなんて……。
手の甲を額に当て、深呼吸。
寝て起きたら……リセットされてませんように。