『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

翌朝。
目が覚めると、隣りに彼女はいなかった。
けれど、部屋の隅に彼女のキャリーケースがある。
夢じゃなかったらしい。

寝起きのままでリビングへと行くと、彼女はキッチンにいた。

「おはようございます」
「おはよう」
「まだお休みになられていても大丈夫ですよ?」
「もう目が覚めたから」
「朝食は如何なさいますか?」
「作ってくれたの?」
「はい、大したものではないですけど」
「う~ん、一時間後くらいでもいい?」
「はい」
「とりあえず、珈琲だけ貰える?顔洗って来る」
「はい」

何だろう。
恋人同士というより、新婚を通り越して、熟年夫婦みたいな感じ。
お互いに照れる感じでもなく、動揺するどころか、行動パターンが読めているというか。

まぁ、出張で早朝に迎えに来ることが何度もあったから、自然な会話なのかもしれない。

昨夜の緊張が嘘のようで。
意外とこの新生活、何の問題もないんじゃないかとさえ思える。

顔を洗い、化粧水を顔に付けながら、彼女の歯ブラシを視界に捉えた。

「うん、いいかも」

洗面台の引き出しを片っ端から開け、確認する。

「ごめん、ちょっといいか」
「あっ、はい」

キッチンにいる彼女を呼びに行き、洗面所へと舞い戻る。

「この空いてるスペース使っていいから」
「ありがとうございます」
「浴室もトイレも使いたいように使ってくれていいから」
「……はい」
「ドレッサー無いから、今日買いに行こうか」
「えっ、わざわざいいですよ。ここで十分出来ますから」
「遠慮しなくていいのに」
「家具を購入するのであれば、正式に決まった後にお願いします」
「……分かった」

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