『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
十二月二十一日。
仕事納めまであと数日。
世の中はクリスマスムードだが、製薬会社にとっては繁忙期でもある。
季節性商品の欠品が相次ぎ、工場だけでなく本社も対応に追われている。
「砂糖とミルク入りにしてあります」
「サンキュ」
ここ半月ほど業務に追われ、副社長とまともに会話出来ていない。
自宅に帰宅するのも日付が変わってからだなんてしょっちゅうで、九時出社の彼が私より早く出社する事もある。
彼と契約生活を始めて半月が経った。
特別変わった様子はない。
仕事が多忙だというのもあるけれど、彼から女性の影も噂もぱたりと消えた。
私がそう仕向けたというのもあるけれど、まさかこんな簡単に卒業できるとは思ってなかったから。
会社での彼の人気もますます上がっている。
女性問題があっても元々人気だった彼が、噂がプツリと消えたことで一気に株が上がったようなものだ。
『如月さん、一階受付にアポなしの女性が来ているんですけど、如何しますか?』
「副社長宛てに?」
『はい』
「名前を聞いて貰ってもいい?名刺があるなら、名刺を頂いて」
『はい、分かりました』
受付から内線を貰い、手帳を手にして急いで一階受付へと向かう。
受付に行くと、『唐沢商事株式会社 代表取締役 常務 唐沢 桃子』と書かれている名刺を渡された。
すぐさま手帳と照らし合わせる。
四カ月ほど前に開かれた総合病院の式典の際に知り合った女性だと判明した。
名刺の裏には、八月十九日、横浜のKホテル、黒いラメのロングドレス、明るめセミボブ、身長約百五十五センチ、やや細身、カルティエのブレスレットと記されている。
カルティエのブレスレット……。
あの日は確か、いつもより早めに出て来たはずなんだけど……。