『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
本社の一階にカフェがテナントとして入っていて、唐沢様はそこにいるらしい。
受付の子に御礼を言って、副社長室へと向かった。
コンコンコン。
「失礼します」
「どうぞ」
「副社長、今お時間宜しいでしょうか?」
「どうした?」
慌てて駆け込んで来た私を気遣い、副社長がパソコンから顔を持ち上げた。
彼の元に歩み寄り、今さっき受け取った名刺と四カ月ほど前に預かった名刺をデスクに並べた。
「今、こちらの唐沢様が一階のカフェにお越しになられています」
「ん?」
「私が直接お会いして、事情を尋ねて来ても宜しいでしょうか?」
副社長は名刺の裏を確認した。
「四カ月前?」
「わざわざ会社までお越しになったからには、理由があるかと」
「………ここに連れて来て貰える?」
「宜しいのですか?」
「あぁ。カフェで話すような事ではないだろ。部外者に聞かれても面倒だ」
「分かりました。お連れ致します」
「頼む」
動じることなく、小さく頷く彼。
私が秘書になってからは、こういうことは一度も起きたことが無い。
私の方が動揺している。
だって、……もしかしたら、彼の子供を妊娠しているかもしれないのに。
再び一階へとエレベーターで降りた私は、呼吸を整えながらカフェへと向かう。
「お待たせ致しました。副社長秘書の如月と申します。……ご案内致します」
カフェのスタッフに請求は副社長宛てにと伝え、唐沢様を副社長室へとお連れする。
「失礼します。唐沢様をお連れしました。……こちらへお掛け下さい」
「……ありがとう」
会釈し、その場を後にする。
すぐさまハーブティーを淹れ、再び副社長室へと戻った。