『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
五分後。
ブルーグレーのスクラブ着の上に白衣を身に纏った久我医師が、検査キットを手にして現れた。
「当病院の久我と申します」
「ご無沙汰しております」
「お久しぶりです」
「こちらの女性が、先程仁科からお電話にてご相談させて頂きました方になります」
「分かりました」
唐沢様の隣りの椅子に腰を下ろした久我医師。
検査内容が記された用紙をテーブルの上に置き、説明を始めた。
『胎児DNA鑑定検査』と書かれた書類。
検査内容から検査結果の詳細、法的書類に関する事項に至るまで明確に記されている。
およそ五分ほどの説明がなされ、久我医師が唐沢様に署名を求めた。
「本来ですと五日ほどかかりますが、仁科君から最短でと依頼があったので今週金曜日の午前中までに検査結果を出すようにします」
「……三日」
「はい、三日後の昼までに」
「こちらにご署名頂きましたら、私の方で採血させて頂きます」
「……分かりました」
唐沢様は深呼吸して、書類にサインした。
「こちらを仁科から預かって来ました」
「ありがとうございます」
ティッシュに包んだ彼の毛髪。
父子鑑定するために必要なものだ。
久我医師は採血し、書類と毛髪をファイルに入れる。
「検査結果はどうされますか?三日後にこちらへ受け取りにお越しになるか、メールでお知らせするか。メールでご報告後に郵送で検査結果の証明書をお送りすることも可能ですが」
「仁科へはメールで報告をお願い致します。検査結果の証明書は私の方で受け取りに参ります」
「分かりました。唐沢さんはどうされますか?」
「……メールでお願いします」
「では、こちらに記載のある連絡先にご連絡申し上げます」
「……はい」
「それと、請求は仁科君の方でいいのかな?」
「はい、当日受け取りの際にお支払い致します」
「分かりました」