『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
大学病院の正面玄関前。
「それでは、三日後にご連絡申し上げます」
正面玄関前に待機しているタクシーに彼女を乗せ、副社長に無事に検査を終えたことを報告し、タクシーに乗り込んだ。
*
会社に戻ると打ち合わせから戻った副社長の後ろ姿を捉えた。
「副社長」
「ご苦労様」
「昼食は如何なさいますか?」
「午後は十四時の会議まで何も無かったよな」
「はい」
「じゃあ、どこかに食べに行く?」
「……私もですか?」
「他に誰がいる」
副社長はわざとらしく辺りを見回した。
「では、ご一緒させて頂きます」
「何か食べたい物がある?」
「特には」
「じゃあ、好物は何?」
「好き嫌いはありません」
「微妙に会話が噛み合ってないよな」
「……そうですか?」
「まぁ、いい。近場の店にでも行こうか」
「……はい」
十二時を回っていて、オフィス街はOLやサラリーマンの姿が多く見られる。
その波に呑まれるようにカフェレストランが軒を連ねる通りを肩を並べて歩く。
「副社長、あそこのビルの地下にあるカレー屋さんは結構美味しいです」
「へぇ~、じゃあそこにしようか」
出先でランチを一緒にとることはあっても、こうして会社近くのお店で食べたことは一度も無い。
副社長と秘書という関係ではなく、同僚に見えるんじゃないかと周りの視線が少し気になる。
こんな風にランチデートのようなことができる日が訪れるとは思ってもみなかった。
*
「スパイスが効いてて旨いな」
「よかったです、お口に合うようで」
「サラダも旨いし、また来ような」
「っ……はい」
“また”……次があることが嬉しくて、ついつい頬が緩みそうだ。