「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
長かった……
鏡の前に座り、ふぅぅと息を吐く。
私から婚約破棄ができない以上、殿下に言わせるしかない。
消極的な方法ではあったけれど、あの殿下は見事、私の策にはまってくれた。
かわいそうに……甘やかされすぎて、何も知らなかったのね。
知っていたら、ハイウォールを解き放さなかったはず。
「よろしいですか?」
ノックが聞こえ、私は扉に目をむける。
「どうぞ」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは、眼鏡を掛けた黒髪の男性。
彼は私に微笑みかける。
「テレーゼ様、この度は婚約破棄成立、おめでとうございます」
「ありがとうございます、バストリー・アルマン様。貴方が殿下を誘導してくれたおかげよ。玉座奪還の際には、引き続きアルマン家の宰相の席と筆頭侯爵を約束するわ」
「ありがたき幸せ」
「噂をばらまいたり、殿下に私の事を進言してくださった、側近やご学友の方々にも労いの言葉をかけておいてくださいませ」
「かしこまりました」
バストリーは丁寧に頭を下げ、兄様と話があるのでと部屋を出て行った。
私は鏡に映った自分の顔に手をかざす。
鏡の中のそばかすが消え、眉毛もスッと伸び、ぷっくりとした唇は艶っぽい赤色に。
鏡に映った青い瞳の美しい令嬢に私は微笑む。
あの忌々しい誓約を交わされた婚約がなくなれば、ハイウォール家は王家に牙をむけられる。
私はふふっと笑った。
殿下はいつ気づくのかしら。
人質を手放してしまい、王家存続の危機を招いたのが、自分だという事を。
そうね、願わくば、わたくしが絶望した殿下に笑顔で教えて差し上げたいわ。
不細工なりに価値はあったのよ……って。
《fin》