ひねくれ令嬢の婚活事情

最低の出会い


「オレリア嬢よ」
「まあ、随分様変わりされたのね。あのドレス、この間も着ていらしてなかった?」
「スミュール家はあの事件の後で、家財を殆ど売り払ったと聞いたわ」
「それは大変ですこと。こんなところにいらして大丈夫なのかしら?」
「だって早く結婚相手を見つけないと、屋敷から叩き出されてしまうから必死なのよ」

 くすくす、と嘲笑う囁き声が器楽の音に乗ってオレリアの耳に届く。声のした方を盗み見れば、似たような流行のドレスを身に纏った、取り立てて美しくもないご令嬢が三人顔を寄せ合って、時折オレリアの流行遅れのドレス姿を見ては意地の悪い笑みを浮かべて話に花を咲かせている。

 人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだが、散々自分達を見下していたオレリアの没落話は至高の甘さであるに違いない。

 
 オレリア・スミュールはスミュール侯爵家の一人娘として生を受けた。スミュール侯爵家は建国より国に仕える忠臣として、歴史に名を馳せてきた大貴族であった。

 それに加え、オレリアは大変美しい娘だった。蜂蜜を溶かしたような艶のある金髪。長い睫毛に縁取られた大きな琥珀色の瞳。新雪のようになめらかで白い肌。それらに魅せられた数多の男によって、オレリアは社交界の華と持て囃された。王太子クロードの妃の選定が始まった頃には、大抵の者がオレリアの名を一番に思い浮かべたものだった。

 だが、オレリア自身は、さして関心を抱いていなかった。ただ、自分を下卑た目で見てくる男たちを心底軽蔑し、自分の価値を高めようと擦り寄ってくる女どもにも辟易していた。皮肉なことにそんな姿もまた、「高嶺の花」と不思議と好意的に捉えられていた。
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