ひねくれ令嬢の婚活事情

「で、君はこんな隅っこで何をしていたんだ?」
「貴方には関係ないです」
「そう?じゃあ僕に付き合ってもらおうかな。なんでも奥に珍しいバラがあるらしくてね」

 差し伸べられた手をオレリアはじっと見つめる。この手を取るのは癪だ。しかし行き先は同じ。
 短い逡巡の後、彼の手を取ることにした。行き着いた先でまた出会すよりはいい。

「素直だね?」
「別に。私も行こうと思っていただけです」
「へぇ?」

 マティアスは、意味ありげに微笑みながらオレリアの顔を覗き込む。

「…………何です?」
「僕と一緒に行きたかったって、言ってくれてもいいんだよ?」

 オレリアは眉根を寄せ、無言でマティアスの手から自分の手を引き抜いた。

 一人ですたすたと歩き出すオレリアのその半歩後を、マティアスは当然のようについて行く。最早何を言う気にもなれず、ただ足を動かすことだけに心を傾けた。

 
 程なくして目当てのバラを見つけ、足を止めた。

 白に近い薄桃色の丸みを帯びた柔らかな花弁が幾重にも重なった大輪のバラが見事に花開いていた。顔を少し近づけるだけで、甘く濃厚なバラらしい香りが鼻腔をくすぐる。

 王立植物園で同じ品種を一度見たことがあったが、この色は咲いていなかった。オレリアはじっと、花弁が風にそよぐ様を眺めていた。
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