ひねくれ令嬢の婚活事情
「バラ、好きなの?」
隣で佇むマティアスが声をかけてくる。その声音にはいつものように揶揄いの気配はない。バラに癒しをもらったお陰か不思議と心が凪いでいて、自然と言葉が出てくる。
「そう、ですね。バラに限ったわけではないですが……。小さい頃は、よく庭にいてよく花を見ていましたから……」
幼い頃のオレリアは屋敷の中が嫌いだった。
父から相手にされない母は、その鬱憤を晴らすようにオレリアや使用人に厳しく当たり、屋敷では毎日のように怒声が響いていた。幼いオレリアにはとても恐ろしく、母の怒鳴り声が届かない庭へいつも逃げていた。
使用人も庭師も母に咎められることを恐れ、オレリアに構うことはなかったが、庭で過ごすことは黙認されていた。庭の草花だけがオレリアの心を慰めてくれていた。
成長していくにつれ、母親を哀れな存在と見下すことで心の安定を図った。庭へ行く頻度も減ったが、花を愛でることは変わらず好きだった。
だが、そんな憐憫の情を誘うような話をしようとは思わない。オレリアは続く言葉に迷い、そのまま押し黙る。