ひねくれ令嬢の婚活事情
「貴方一体、何が目的なの?私に関わることで、貴方にもたらされる利点なんて一切ないと思いますけど」
オレリアが詰め寄ると、マティアスは顎に手を当て考える仕草をした。
「利点、ねぇ……。じゃあ逆に聞くけど、君って自分に利点がない人間とは関わらないのか?」
「…………知りません。誰かと関わりたいと思ったことはないので」
物心がついた時からオレリアの人間関係は希薄だ。
社交デビューをしてから知り合った人々は皆、オレリアの家柄や美貌に惹かれて集まっていた。自分自身の価値が外面にしかないことは理解していたものの、そうして集ってくる人間のことは嫌いだった。浅ましい欲望が透けて見えていたからだ。
だから、誰かと特別親しくなりたいだなんて、思ったことすらなかった。
過去に浸っていると、マティアスが手を伸ばして、オレリアの頬にそっと触れていた。触れた指先は思いの外、冷たい。
そのまま、彼はオレリアの頬をすうっと撫でていく。いつもなら跳ね除けるだろうに、なぜだかオレリアは動くことができなかった。
見上げた彼の瞳には憐れみが滲んでいるように思えた。オレリアはそっと目を伏せ、唇を噛み締めた。
そこに、風にかき消されそうなほどの微かな笑い声が降ってくる。
「君と関わる利点、思いついたよ。見ていて飽きない」
「は、はぁ?」
それのどこが利点なのか。まるで見世物に対するような物言いだ。ムッとして睨め上げるも、マティアスはからりと愉快そうに笑うだけだった。
そして、彼はコートのポケットから懐中時計を取り出した。時刻を確認し、それからオレリアを見てにやりと笑った。
「もう時間だ。そういうわけだから、じゃあ、また今度」
右手をひらりと振り、マティアスはオレリアへ背を向けた。
「ちょっ、ちょっと!」
呼び止める間もなく、マティアスの背はさっさっと長い足でもって、あっという間に遠ざかっていった。