ひねくれ令嬢の婚活事情
「朝早くから申し訳ございません。今日のこの時間しか、まとまった時間が取れなかったもので。仕立て屋は後から参ります」
オレリアは叔父と母と共に立ち上がり、マティアスを出迎えた。
応接室に入り開口一番にそう口にしたマティアスは叔父と握手を交わす。
「いえいえ。マティアス殿は宮廷で一番働いていらっしゃるともっぱらの噂ですからね。殿下の信頼が厚いのも頷ける」
「とんでもない。僕の力不足なだけですよ」
朗らかにそう笑うマティアスをオレリアはさりげなく観察した。
舞踏会の時とは異なり鳶色の前髪は下ろされているが、それも無造作ではなく、どこか洗練した雰囲気を感じさせた。
朝早くにも関わらず装いに隙はなく、表情にも疲労や眠気は滲んでいない。多忙であるという言がまるで嘘であるかのように、彼は完璧な紳士の姿だった。
その笑顔が張り付いて見えるのは、オレリアの見方が穿ち過ぎているからだろうか。
そして、その腕には真っ赤なバラの花束を抱えている。吸い寄せられるようにオレリアの視線がその一点に注がれる。あからさまに見つめすぎたせいか、小さな笑い声と共に眼前に花束が差し出された。
「ありきたりとは思ったんだけど、やっぱり君にはバラが似合うと思って」
「あ、ありがとうございます……」
本当に来たことも驚きだが、手土産まで持参する周到ぶりにオレリアは戸惑いがちにお礼を言うことしかできない。
すると、背後から「まあ!」と非難がましい甲高い声が上がる。
「オレリア、そんな態度ではマティアス様に失礼ですよ。とても美しいバラですこと。瑞々しくて、香りも芳醇で、この子には勿体ないくらいですわ。マティアス様は、素晴らしい審美眼を持っていらっしゃるのね」
母は冷たくオレリアを一瞥し、すぐにマティアスへ賛辞を送る。マティアスはただ笑みを深めるだけで、何も言うことはなかった。
母の険しい目つきには慣れきっている。今更萎縮することもなく受け流し、オレリアは執事に花束を渡して私室に飾るよう頼んだ。