ひねくれ令嬢の婚活事情
その様子が癇に障ったようで、母は大袈裟にため息をつき首を振った。
「全くこの子は、親に対する礼儀というのを知らないんだから。マティアス様、申し訳ございませんわ。貴方がこの家に来ていただく頃にはちゃんと躾直しておきますから」
オレリアは母の言葉に目を見開く。
マティアスがこの家に来る頃?オレリアはマティアスと結婚の予定もなければ、婿を取って家を継ぐつもりもない。
彼にいらぬ誤解を植え付けないよう、強い口調で母に反駁した。
「お母様、ヴェルネ様はそんなご用でいらしたのではありません。誤解を招く発言はおやめください」
「何を言っているの?彼が貴女に結婚を申し込む許可がほしいというから、こうしてご挨拶をしているのでしょう?」
またもや信じがたい話が飛び出て、オレリアの表情が驚愕の色に染まる。
「け、結婚……?」
「そうよ。これで貴女がこの家を継げるのよ」
誇らしげな笑みを浮かべる母は、自分の望みしか見えていない。隣に立っている叔父は母の発言に苦笑いを浮かべている。
叔父がいなければ、父が死んだ時点でスミュール家は没落する他なかったというのに。共に債務整理に奔走した過去を思い出し、母の身勝手にカッと頭に血が上る。そして、マティアスがいることも忘れ、オレリアは母をキッと睨みつけた。
「お母様、もうこのスミュール家の当主は叔父様です。たとえ私が結婚をしたとしても……この家を継ぐことなどありえません!いい加減に、現実を見たらいかがですか?!」
「な、なんですって!!貴女、私に向かって、なんて口の聞き方をするの?!!」
激昂した母が手に持った扇子を振り上げる。
打てばいい。避けることなど到底しようと思わなかった。