ひねくれ令嬢の婚活事情
「あの、それより、結婚ってどういうことですか?」
問い詰めるような口調になったのは致し方ない。
階段の登り途中で足を止めることになったマティアスは、オレリアの言葉に目をぱちくりと瞬かせた。段差により身長差が縮まったせいで、いつもより彼の表情をつぶさに読み取れる。
マティアスはすぐさま余裕綽々といった風な笑みを向けた。
「そのままの意味だけど」
「…………貴方、私と結婚したいんですか?」
お高く止まった台詞だが、他に何と言えば良いか思いつかなかった。にわかに信じがたいのだ。
まともに会話をしたのは今日を含めて三回だけ。世の中には一目見て恋に落ちる男女もいるが、自分たちに至っては親密な空気は一片たりとも流れていなかったというのに、なぜ?
オレリアの物言いがよほど面白かったらしく、マティアスは腹を抱えて笑い出した。
「あははははは!そうだね、結婚するなら君がいいなって思ったから」
目尻にうっすら溜まった涙を拭うマティアスに対し、オレリアは訝りの眼差しを向けた。どうにも、揶揄われているような気がしてならない。
「…………理由を伺っても?」
「クロードも婚約したし、僕も早く結婚しろって両親にせっつかれたっていうのが一つ。あとは、君とは気が合いそうだなっていうのが理由かな」
「……そうでしょうか?」
そんなことは露とも思っておらず眉を顰める。
マティアスはそんなオレリアをくすくすと笑いながら、「それに」とさらに言葉を付け加える。
「見ていて飽きないしね」
「…………馬鹿にするのはやめてください」
唇をきっと引き結び、目の前の男に背を向ける。
やはり揶揄われているのだろう。結婚などと持ちかけてくるあたり殊更にたちが悪い。