ひねくれ令嬢の婚活事情
「なるほどね。それについて言わせてもらうと、僕は両親から、特に政略的な結婚を求められているわけじゃない。だから、君の家の財政状況はあまり関係ないかな。第一、スミュール家の借金は完済されているし、尚更問題ない」
マティアスは一度言葉を切り、足を止めた。振り返ってオレリアを見下ろす目は、優しい。
「君の噂がでたらめだってことはもう知ってる。不器用で社交下手で、ちょっとひねくれてるだけだってこともね」
マティアスの片手が不意に伸びてきたかと思えば、ぽん、と頭を軽く撫でられた。自分の欠点を並べられ、さらには幼子のような扱いをされ、気恥ずかしさからオレリアはきゅっと唇を噛んだ。
「それに、たとえ君のことで悪く言う奴がいても、そんなことで僕の評価は落ちないよ。だから、君でも十分、僕に"相応しい"と思うけど?それでも、まあ……君が自分のことを相応しくないって思う程度には、僕を評価してくれていることは光栄かな」
自信たっぷりに言うマティアスに、オレリアは反論の言葉を失くしてしまった。呆れではなく、こんなにも自分という存在を他人から強く求められることに戸惑っていた。
この家でオレリアの存在は陰に等しかったし、オレリアの外見を誉めそやしていた男たちは皆、オレリアが冷めた態度をとると、たちまち不機嫌になるか、興味を失って去っていった。マティアスにも決して愛想など振りまいていなかったというのに。
やがて客間の前にたどり着き、二人は足を止めた。その間、オレリアの右手はマティアスの掌の中にあった。不思議と嫌ではなかった。
「貴方って変な人ですね……」
客間の扉を開けながら、オレリアはぼそりと呟いた。それは蝶番の軋む音で掻き消えるほど小さな声だった。