ひねくれ令嬢の婚活事情
今夜はあなたと踊りたい
王太子クロードの誕生祭の当日。沈みゆく夕日を眺めながら、オレリアは一人馬車に揺られていた。
オレリアが身に纏うのは、若草色の豪奢なドレスだ。胸元から腰にかけて金糸で花の刺繍が施され、それをさらに彩るように宝石とビーズがふんだんに縫い付けられている。
仕立て屋が屋敷に来た際、マティアスから散々布地を当てられ、その中から選び抜かれた生地なだけあり、オレリアによく似合っていた。
ドレスと同じく贈られた揃いのアクセサリーは、彼の瞳の色によく似た濃青の青玉が輝きを放っている。鎖骨のあたりで、貴石に縁取られた大粒の青玉が馬車の振動に合わせて揺れる中、オレリアは出発する前に届いたマティアスからの手紙の内容を思い出していた。
ヴェルネ伯爵家の早馬を使って届けられたその手紙には、事情があり迎えに行けなくなったこと、そして、ファーストダンスが終わったら必ず迎えに行くから会場で待っていてほしい、と書かれていた。
手紙を読み終えると、胸に小さな鉛玉が落とされたような感覚がしたが、オレリアは深く考えることを止め、馬車に乗り込むことにしたのだった。身支度は済ませていたし、流石にこれだけの高価な物を贈られ、約束を反故にするほどオレリアは常識知らずではなかった。
宮殿の門構えが見え始めたところで、窓のカーテンをさっと閉めた。社交場を楽しいと感じたことはないが、いつもより気が重いのは何故だろう。オレリアはその気の重さを振り払うように毅然と前を向き、馬車が止まるのを待った。
宮殿のダンスホールは既に大勢の人で賑わっていた。オレリアが入場すると、好奇の目がそこかしこから注がれたが、気にせず壁際へ移動し、荘厳な天井画を眺めることにした。