ひねくれ令嬢の婚活事情

 人の影に隠れるようにそっとバルコニーへ出て、そこから中庭へ続く階段を降りて行く。夏が近づいているとはいえ、夜はまだ冷える。ドレスから露出した肩が夜風に当たりぶるりと震える。オレリアは時折肩をさすりながら夜の庭園を歩いた。

 月明かりが優しく照らす中、周囲の草花にも目を移すことなく、ただ歩いていた。途中、ガゼポを見つけ、その中に備え付けられた石造りの長椅子に腰掛けた。

 (騙されていたのかしら)

 結婚も爵位の継承問題も全てオレリアの意思を重んじると言っていた、あの言葉は嘘だったんだろうか。マティアスにとっては、オレリアを言い包めることなど造作もないのかもしれない。

 そもそもどうしてオレリアにドレスを贈ってまで舞踏会に連れ出そうとしたのだろう。求婚している建前上仕方なく、なのだろうか。それとも自分には他に愛している女性がいるということを、知らしめたかったのだろうか。
 
 そう思うも、オレリアの心に怒りはなかった。

 胸に広がるのは動揺と落胆と、惨めさだ。この感情を突き詰めていくと、もう後には戻れない気がして躊躇する。

 そうしてどのくらい時間が経ったのだろうか。肌寒さから身が縮こまり、そろそろ戻ろうと腰を上げたとほぼ同時に、地面を踏み締める靴音が耳に飛び込んできた。
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