ひねくれ令嬢の婚活事情
しかし、オレリアも好んでこんな所にいたわけではない。
「……別に、私のことなど放っておいていただいて構いません。リリアーヌ殿下のところへ戻られてはいかがですか?」
わざと取り澄ましたようにオレリアは言ってみせる。
だが、マティアスは一言も発せず、身動ぎもしなかった。不審に思い徐に顔を上げると、真っ直ぐにオレリアを見つめるマティアスの瞳がそこにあった。
「僕はオレリア、君といたい」
その言葉に唇を噛み締める。
そんなことを言わないでほしい。大切にされていると思わせないでほしい。どうせ捨てるのなら、これ以上心を掻き乱さないでほしい。
オレリアは全てを拒絶するように頭を振った。
「…………私、貴方と結婚はしません。だからもう構わないで」
「……何故?」
マティアスの纏う空気が強張るのが分かった。けれど、オレリアは構わず話を続けた。
「貴方も結局は侯爵という肩書きが目当てなのではないの?我が家を乗っ取れば、リリアーヌ殿下を娶れるものね。私は……利用されるなんて御免だわ……」
「は?娶る……?待ってくれ、君はおかしな誤解をしている!」
驚きに満ちた声と共にがっと両肩を掴まれ、オレリアは衝撃から思わず小さな悲鳴を上げた。マティアスはすぐさま謝り、オレリアから手を離した。
そして、マティアスはオレリアの体が冷えていることに気がつくと、コートを脱ぐとオレリアの肩に掛ける。拒否しようにも強い口調で羽織っているように言われ、渋々ながら言う通りにした。
甘いアンバーがほのかに香るコートは、彼の体温が移っていて暖かい。まるで抱きしめられているような、そんな錯覚に陥りそうになる。