ひねくれ令嬢の婚活事情
「今日のことはすまない。王妃様直々のお願いでね。リリアーヌが、やっぱり僕のエスコートじゃないと嫌だと言って朝から部屋に閉じこもって出てこないから、どうにかならないかって。だから、リリアーヌに付き添ったのも臣下として役目を果たしただけだ。誓って、やましい関係じゃない。そもそも出会ったのは子どもの頃だけど、その時からリリアーヌと結婚したいだなんて一度たりとも思ったことすらないし、僕はああいう子どもっぽい我儘女は全く好みじゃない」
不敬な発言が飛び出し、思わず周囲に人目がないことを確認してしまう。王太子の乳兄弟であっても、誰かに聞かれたら咎められかねない。
いつもの飄々とした雰囲気を一切消した真剣な面持ちで、マティアスはオレリアを一心に見つめている。それを前にして、オレリアは彼が嘘をついているようには思えなかった。
「後は何だっけ?――ああ、爵位のことか……。前にも言ったと思うけど、僕は別に、君が家を継ごうが継がまいが、どちらでも構わないよ。個人的な資産はそれなりにあるしね」
オレリアの手をすっと取ったマティアスは、自らの顔の前にその手を掲げる。瑠璃色の双眸は力強くオレリアを射抜き、目を逸らすことができない。
「僕のことは信じられない?」
その問いにオレリアはふるふると首を振った。彼は行動と言葉でもって、誠意を尽くしていた。それは疑いようのないことだ。
そして、オレリアは彼の誠意に触発され、心の奥底にしまった本音というものを少しだけ曝け出したくなった。
「………………あの……探しに来てくださってありがとうございます」
「うん」
「…………私……多分、嫌だったんです…………貴方とリリアーヌ殿下が踊っているところを見ているのが…………」
言い終えたところで急に居た堪れなくなり、すっと俯いた。
しかし、腰を強く引き寄せられ、バランスを崩してマティアスの腕の中にすっぽりと収まってしまう。思いもよらぬ行動に、かあっと頬に熱が集まる。痛いくらいに脈を打つ胸の鼓動が聞こえてしまいそうだ。
「ごめん。もう君としか踊らないから……僕と踊ってくれますか、オレリア嬢?」
耳元で囁かれたその言葉に、オレリアはこくりと頷く他なかった。