ひねくれ令嬢の婚活事情
「……なんだか、貴方といると調子が狂います」
絢爛たるシャンデリアの灯の下、軽やかにステップを刻みながら、オレリアは溜息をこぼした。先刻、ガゼポで晒した醜態を思い出し、また眉間に皺が寄る。気落ちしていたとは言え、らしくない言動をしてしまったものだ。記憶に鍵をかけて水底に沈めてしまいたい衝動に静かに駆られている中、オレリアをリードしている男はくすくすと笑っている。
「普段の君もいいけど、ああいう素直なのも中々可愛らしかったから、今後も調子を狂わせてもらって構わないよ」
にこにこと笑うマティアスを半眼で睨め付ける。しかし不思議と嫌ではない。
オレリアは頼もしい腕と優美な音色に身を任せる。舞踏会のダンスに不快さを感じなかったのはこれが初めてだ。
密かに、ほのかな楽しみを見出していたところで、マティアスが「あ」と声を上げた。
「言い忘れていた。そのドレス、よく似合ってる。とても美しいよ」
これまでにも散々言われ尽くした言葉だというのに、そわそわと心が浮ついてしまう。そっと上目をつかいマティアスの顔を盗みると、喜色を満面に湛えていた。顔の造形がいい分、目の毒だ。オレリアはすっと視線を泳がせる。
「次は普段使いのものでも選びに行こう。ついでに植物園に行くのもいいし」
当然のように言うマティアスに、オレリアはぎょっとして顔を上げた。
「べ、別にそんな、施しのようなものは必要ありません」
「施しじゃなくて、君を甘やかしたいだけだよ」
「甘やか……」
甘やかされるなんて、これまでのオレリアの人生の中で無縁だった言葉だ。何も知らない子どものように辿々しく復唱してしまう。それを見て、マティアスはくすりと笑い、オレリアの耳元に唇を寄せた。
「そう。だから君は黙って甘やかされればいいんだよ」