ひねくれ令嬢の婚活事情
エピローグ
ここは王立植物園。
最近建てられたばかりのガラス張りの大温室内を、マティアスは彼の恋人ともいえるオレリアと共に歩いていた。
普段目にすることのない、いっそ毒々しいほどに色鮮やかな花々はマティアスの視界を容赦なく刺激してくる。この中に咲いている花の名前など一つたりとも知らないが、隣を歩く恋人が熱心に眺めている様を見ているだけで満足だ。なんとか休みをもぎ取ってよかったと心底思う。
一悶着があったクロードの誕生祭から三ヶ月が経ち、マティアスは恐らく順調にオレリアとの仲を少しずつ深めていた。
仕事の合間を縫っては会いに行き、最初はつんと澄ましていたオレリアの表情も回を重ねるにつれ段々と柔らかくなってきていた。最もそれは、傍から見たら随分と分かりにくいものではあるが。
警戒心を顕にしていた捨て猫の心を徐々開いていく快感はなかなかに得難いものだ。勿論オレリアは決して捨てられたわけではないが。それをクロードに話すと「俺には理解できん」と一蹴された。マティアスは猫が好きだが、クロードは犬好きだった。好みが相容れないのは昔からだ。
明らかに眉唾物とわかる噂にすら懸念を示すクロードの過保護ぶりに当初は呆れていたが、そのおかげでオレリアと知り合えたのだから、クロードには感謝している。
高慢な「悪役令嬢」と噂されていたオレリア・スミュールは、実際には少しひねくれているだけのただの社交下手な令嬢だった。
周囲の雑言など笑顔で躱せばいいのに、オレリアは真っ正面から受けて立っていた。そんなことをしても波風が立つだけだ。
だが、不器用に自分の身を守るオレリアの姿は、マティアスの庇護欲を大いに刺激した。誰からも守られない彼女を、溶けるほど甘やかしてやりたいと思った。