ひねくれ令嬢の婚活事情
「エレーナ様、お美しいわ」
「本当に。気品に溢れていらっしゃるわ。慎みがないあの方とは大違いね」
「あら、比べるのも失礼でなくて?」
例のご令嬢方がまたオレリアを見て、せせら笑っている。
相手にしなければいい。頭では分かっているものの、悪意に晒され続け、いい加減うんざりしてきていた。悪手であるとは理解しながらも、オレリアは彼女たちの輪に加わることにした。
「ご機嫌よう、皆様。何のお話をされていたのですか?」
素知らぬふりをして声をかけると、彼女たちは分かりやすく狼狽え、一歩後ずさった。
「エレーナ様は本当にお美しいですわね。今日は皆様がいらっしゃるから余計に際立って見えますわ」
三人の顔をじっと見ながら微笑むと、ご令嬢方の顔がひくひくと引き攣った。扇子で隠された口元は大層歪んでいることだろう。オレリアは笑みを崩さずさらに言葉を続ける。
「この後のワルツ、皆様はもうお相手は決まっていらして?なんと言っても殿下とエレーナ様のご婚約のきっかけとなった"縁結びのワルツ"ですもの。皆様は私と違ってとても華やかな装いをしていらっしゃるから、殿方のお誘いもひっきりなしでしょうね。どんな素敵な方と踊られるか、私、楽しみにしておりますわ」
うっとりと微笑みかければ、ご令嬢たちは眉間にぐっと皺を刻み、怒りに満ちた目でオレリアを睨みつける。
王太子がエレーナとの婚約披露パーティーで踊ったワルツは"縁結びのワルツ"と呼ばれ、意中の相手と踊ると結ばれると未婚の令嬢の間で憧れと共に囁かれている。このワルツを踊ることは名誉であるが、同時に踊らなければむしろ売れ残りとみなされる。
相手がいないことを当て擦られたご令嬢達は挨拶もそこそこに立ち去って行く。
(ちょっと言い返されたくらいで逃げ帰るなんて馬鹿馬鹿しいったらないわ)
ふん、と鼻を鳴らし彼女たちに背を向けた。彼女たちを言い負かしたところで気分は晴れず、気分転換に外の空気を吸おうとバルコニーへ向かおうとした。