ひねくれ令嬢の婚活事情
 
 マティアス以外とは結婚しないと、公務も放り出し我儘を突き通そうとするリリアーヌに、王家の責務をきちんと果たすよう叱責をしたところ、「そんなことを言うなんてひどい!今まで優しくしてくれたのは嘘だったの?!」と泣きながら憤慨していた。恐らくリリアーヌの中の理想のマティアス像はバラバラに砕け散ったことだろう。それを見越して、わざと厳しい口調で刺々しい嫌味を並べ立てたのもあるが。

 リリアーヌの婚約相手もマティアスに似た優しげな美青年だ。もっとも、マティアスの柔和な相貌は仮面であるが。それに、こちらは正真正銘本物の王子様である。二人の間に障害は何もなく、叶いもしない恋を募らせるより余程いい。

 だが、仮にも王族相手に流石に言い過ぎていたかもしれない。その時のリリアーヌの癇癪を思い出しながら乾いた笑みを浮かべていると、隣のオレリアが目を伏せ思案顔をしている。

「どうかした?」
「…………いえ、特には」
「そうは見えないけど。それともあれかな、王女殿下に愛想を尽かされるような男と結婚することに後悔してる?」

 冗談混じりで言うと、オレリアは顔を上げ驚いた様子で目を瞬かせた。そして、ふっと顔を綻ばせた。それは控えめながら、蕾が花を開くように美しく、マティアスは一瞬見惚れてしまう。

「……貴方でもそんな殊勝なことを言うのですね」

 言葉には可愛げがないのもまた彼女らしい。

「そうだね。君に結婚したくないって言われるのはなかなか堪えるから。それで、僕のお姫様は何を考え込んでいたんだ?」
「なっ……馬鹿みたいなことを言わないでください」

 案の定、眦を釣り上げて強く抗議するオレリアを笑顔で黙殺する。オレリアはうっと言葉に詰まり、唇を固く引き結んでいたが、マティアスが一歩も引く気配がないことを悟り、渋々といった様子で口を開いた。
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